(本記事は、スティーブ・シムズ氏の著書『なぜ私は「不可能な依頼」をパーフェクトに実現できるのか?』大和書房の中から一部を抜粋・編集しています)

悪い人間関係を放置していると、いい関係まで汚染されてしまう

悪い人間関係
(画像=sirtravelalot/Shutterstock.com)

「ノー」と言える人は、「解雇」する能力を手に入れる。解雇する相手は誰でもかまわない。社員だけでなく、クライアントや得意先も含まれる。友人だって解雇することができる。

私はこれまでの人生で、たくさんのすばらしい人たちに出会ってきた。彼らのそばにいるだけで、自然と笑顔になる。これが一緒にいる人を選ぶときの基準だ

とても単純なことなので、よく理解してもらいたい。車を運転するのは、車を運転する必要があるからだ。ある服を着るのは、その服を着るといい気分になるからだ。それと同じように、誰かと友達になるのも、その人と一緒にいるのが楽しいからだ。もし楽しくないのなら、それは本当の友達ではない。

世界でもっとも愚かな行為を教えよう。それは、ためにならない人間関係だとわかっているのに、がまんしてその相手と一緒にいてしまうことだ

ただ、「小さいころからずっと一緒だから」「職場の人だから」「妻の親友だから」といった理由で、その人と離れられずにいる。「1人ぐらい気に入らない人がいるからといって、他の人間関係に影響が出るわけではない」という考えだ。

しかし、問題の人物の顔が見えるたびに、あなたの心は暗く沈む。その人物は、あなたの何かを奪い取る。そのときに感じた嫌な気持ちは、1日が終わるまでずっとあなたにつきまとう。ミーティングに出るときも、心のもやもやはまだ残っている。愛と思いやりを発揮するような気分にはとうていなれない。イライラして、精神的に疲弊している。

嫌いな相手に会ったすぐ後に、本当に好きな人に会うかもしれない。しかしそのときも、あなたの心は前の出会いで汚染されたままだ。あなたの機嫌が悪いことは、目の前にいる相手にも伝わるだろう。

するとその人は、「スティーブのようすがおかしいな。自分が何か気に触るようなことをしてしまったのだろうか?」と考える。目の前にいる相手をそんな気持ちにさせるなんて、絶対にあってはならないことだ。

いついかなるときでも、目の前の相手に全神経を集中させ、全エネルギーをそそがなければならない。自分と一緒にいる人には、いい気分になってもらいたい。何の心配もしないでもらいたい。「何か悪いことをしてしまったのか」と気を使わせるなどもってのほかだ。

悪い関係をそのまま放置しておくと、いい関係まで汚染されてしまう。

たとえば、前にも言ったように、有能な社員を解雇しなければならなかったことがある。彼女は営業成績トップだった。彼女がいなくなれば、2ヵ月は売上げが減ることもわかっていた。それに加えて、彼女とは5年来のつきあいだ。誕生日も知っているし、好きな食べ物も、好きなお酒も知っている。どんな仕事の関係でも、お互いに心を開けばそこに絆ができる。

しかし、私たち2人の絆は、ときどきほころびが出ることがあった。そしてやがて、ほころびはどんどん大きくなっていった。関係が険悪になるたびに修正しようとしてきたが、かなりの時間と労力を取られてしまう。楽しい時間よりも、苦労する時間のほうが多くなったら、何かがおかしいと気づかなければならない

彼女を解雇するのは簡単ではなかった。しかし、いざいなくなってみると、すぐに気分が晴れやかになるのがわかった。悪い人間関係を断ち切ったことで、エネルギーが向上したのだ。ネガティブなエネルギーにやられることはもうない。他の社員たちもそれは同じだった。

自分のエネルギーを奪う人に対しては、はっきり「ノー」と言えるようになろう。「あなたの存在は、ビジネスの助けになっていないし、私生活の助けにもなっていない。正直なところ、その両方で私の足を引っ張っている」とはっきり伝える。

たとえ1分でも、他の誰かに自分の人生を奪わせてはいけない

これまでに出会った多くの人が、身をもって私に教えてくれたことだ。

わかりやすい例を1つあげよう。私はメンターと一緒に、とあるパーティに出席した。メンターはとても有能なセールスマンだった。そのためパーティでは、彼に取り入ろうとする人が周りに集まってきた。

彼はそのうちの1人を呼ぶと、酒を渡した。その人物は、伝説のセールスマンから直々に酒を渡してもらい、有頂天になっていた。しかし、そのとき私のメンターは、きわめて冷静にこう言った。

「悪く取らないでほしいのだが、きみと私では根本的な考え方が違うようだ。きみを尊重しないわけではない。しかし私たちは友人にはなれないだろう」

その言葉を横で聞きながら、私は内心で驚愕していた。これは予想外の展開だった。メンターは言葉を続けた。

「だからもう他の人のところへ行ったほうがいい。このパーティは人脈を広げるいいチャンスだ。私と一緒にいて時間とエネルギーをムダにすることはない」

私は考えた。「すごい!この発想はなかった」

しかし、メンターの態度は誠実そのものだった。彼はその人の肩に手を置くと、優しく言った。「向こうにいる人が見えるだろう?彼はきっときみと気が合うはずだ。行って話してくるといい」

しばらく後で、その人はメンターのところに戻ってくると言った。「ありがとうございます。よくわかりました」

するとメンターは、ただ「どういたしまして」とだけ答えた。2人の間には、心からのお互いへの敬意が存在した。

当時、私はまだ20代で、「オレは永遠に生きるだろう。オレは最強だ」というような、くだらないことばかり考えていた。メンターは私のほうをふり返ると、こう言った。

「たとえ1分でも、他の誰かに自分の人生を奪わせてはいけない。二度と取り戻せないからね」

人間関係を整理する基準

ここで、自分の人生に登場する人をすべて書き出してみよう。

自分の長所と短所がわかったら、次のステップは人間関係の分析だ。この作業は、春の大掃除にも似ている。

自分に大きな影響を与えた人たちをリストにして、つながりの強い順に並べていく。自分を中心とした円にするとわかりやすいだろう。いちばんつながりが強いのは家族になるかもしれない。それから友人、取引先、仕事のパートナー、クライアント、得意先……というように、いちばん関係が遠い人まで並べていく。

どんなに円の中心から離れていても、あなたの交友関係という円の中にいることに変わりはない。あなたという太陽系の中にある惑星なのだから、何らかの形であなたに影響を与えている。

人間関係の見取り図ができたら、今度はそれを客観的に眺める。「好きな人」に○をつけ、「嫌いな人」「苦手な人」に×をつける。どちらでもない人はそのままだ。紙の上なら簡単な作業だろう。客観的に分析をすれば、切るべきものはおのずとわかる。

仕事関係の人を切る必要があるときは、金銭的な貢献だけで判断してはいけない。その人と一緒にいると気分が上向きになるか、その人がいると職場が明るくなるか、チームワークができる人かといったことも考慮に入れる。

その人は、会社が目指している価値観と完全に合致しているか?その人がいるおかげで、人生の大きな部分を捧げて仕事を楽しむことができるだろうか?もしそうでないのなら、やるべきことはわかっているだろう。

プライベートの人間関係は、ビジネスの人間関係よりも人生に大きな影響を与える。仕事であれば、たとえば新しい会計士を雇いたいなら、すぐに見つけることができる。しかしそれが配偶者になると、そう簡単に代わりは見つからない。新しい妻が欲しいなどと口にしたら大激震が走るだろう(少なくとも私の場合はそうだが、配偶者を切るべき人も当然いるだろう。小さな変化もあれば、巨大な変化もある)。

一般的に、いちばん近い関係にある他人は家族ということになる。そして悲しいことに、そのいちばん近い人たちが、いちばん有害な存在になることもある。ときには家族に向かって、こう言わなければならないこともあるかもしれない。

「あなたにはあなたの人生がある。そして私には私の人生がある。あなたが困ったときや、助けが必要になったときは、家族なのだからもちろん駆けつける。でも、友達としてはつきあえない。それはあなたにとっても同じだろう。だからお互いに、うまくいかないことにムダなエネルギーを使うのはやめよう」

結局のところ、そもそもうまくいかないものをうまくいかせようとがんばっていると、人生の多くの部分がうまくいかなくなるということだ。

近い間柄の人に「ノー」と言うのはとてもつらいことだ。それは私もよくわかる。そもそも、「簡単な解決策がある」とは最初から言っていない。身を切られるような思いをすることもあるだろう。

しかしここを避けて通っていては、真のブルーフィッシュをマスターすることはできない。自分の足で立ち、誰かに向かって「ノー」とはっきり言うことができれば、想像もしていなかったほどの自由と解放感が手に入るだろう。

あなたの人生は、あなただけのものだ。他の誰のものでもない。イヤな連中とがまんしてつきあっていても、それで人生の時間が延びるわけではない。それにお金がもらえるわけでもない。人生の時間は限られている。その時間を賢く使って、美しい人生にしなければならない。

それが「ノー」の力だ。「ノー」という言葉には、人生の余分な脂肪を切り取る力がある。「ノー」と言うことに慣れていこう。小さなことから始めていけば、いずれ「ノー」と言うのが苦痛でなくなる。習慣のように言うことができるようになる。

そうなれば、もうどうでもいいことや害になることに、人生の貴重な時間を費やすことはない。本当に大切なことに集中できるようになるだろう。

なぜ私は「不可能な依頼」をパーフェクトに実現できるのか?
スティーブ・シムズ(Steve Sims)
ロンドンのレンガ職人の家に生まれ、レンガを積み続ける10代を過ごす。19歳の時に仕事を辞め、朝はケーキ配達、午後は保険の営業、夜はクラブのドアマンと3つの仕事を掛け持ちする生活に。数年後、香港で銀行の仕事を得るが2日で解雇され、やむを得ずドアマンの仕事をしたところ頭角を現し、富裕層からパーティの企画を依頼されるようになる。その後、顧客の生涯の夢を叶える高級コンシェルジュ・サービス「ブルーフィッシュ」を創設し、20年にわたって経営している。顧客のリストには世界の名だたるセレブが名を連ねる。ブルーフィッシュは世界各地にオフィスを構え、「フォーブス」誌、「ニューヨーク・タイムズ」紙、「アントレプレナー」誌など数多くのメディアに取り上げられてきた。また、ハーバード大学や国防総省などで基調講演を行った経験を持つ。

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